金属材料の研究って実際どんなことをしているの?

はじめまして,たきと申します.

私は現在大学4年生で,年末に卒業研究を無事終え,研究経験は約2年になりました.

私が行ってきた研究は金属材料の研究になります,と言っても大半の方々は実際どんな研究を行っているか見当もつかないと思います.

そこで,本記事では私が普段行っている金属材料の研究について紹介していこうと思います.

この記事が大学の研究室選びに悩んでいる学生の手助けになれば幸いです.

 

1.材料系の研究について

材料系とひとまとめに言っても,それは非常に多岐にわたります.

 

例えば,

その材料は金属なのか,それとも非金属なのか?

その研究は構造材料に向けたものなのか,それとも機能材料に向けたもの?

実際に実験を行っているのか,それともシミュレーションや計算が主なのか?

などでしょう.

 

研究室を探している学生はそれらの点に注意しなければいけません.

ちなみに,私が行っている研究の対象は金属材料で,主に実験を通して行っています.

そのため,その点に留意して読んでもらえればと思います.

2.研究の流れ・進め方

研究や実験の流れについて紹介したいと思います.

まず,材料系に限らず大半の研究は次のような流れで研究は行われます.

① 研究内容・先行研究について学ぶ

 先行研究を調べ,自分が行う研究の新規性や重要性を理解しなければいけません.その研究に新規性が無ければそれは全く評価されないためです.

 また,先行研究を通して,その分野の何が明らかで何が解明されてないのかを把握しなければ,おのずとその研究に行き詰ると思います.

② 実験・解析を行う

研究成果を得るために実験を行い,そのデータを解析します.

実験を行うにあたっては,何の実験を,何のために,何度行うかを考慮して行うことが重要だと私は考えています.これが疎かであると,実験に必要以上の時間を割いてしまうことになります.

③ 実験結果を考察し,論文を執筆する

研究の最後には必ず論文執筆があります.

学部の卒論でも,大学院の修論でも,教授でもそれは変わりません.実験結果に基づいて,その結果がなぜ生じたのかを考察し,その結論を論文に記します.

 

以上が研究の流れになります.

 

特に,私が行っている金属材料の研究においては,

② 実験・解析を行う

の実験が非常に大変です.

私の大学の所属は機械工学科であるため,学科内に材料系以外の研究室が多々ありますが,それらの研究と比べても材料系の実験ははるかに大変だと常々思わされます.

その理由については次項で述べたいと思います.

3.金属材料研究の実験

ここでは,私が普段行っている実験を基に,一連の実験の手順を紹介します.

ちなみに,私の研究室に限らず,金属材料の研究においてシミュレーションではなく実験で行っている研究の大半はこのような流れで行われていると思います.

① 研究に使用する供試材を作製する (Prepare)

研究で用いる材料を作製します.私の研究室ではアーク溶解を用いて金属を溶かし,インゴットを作製し,圧延や鋳造によって供試材を作製します.(研究室によっては企業に供試材を提供してもらうこともあります)

② 供試材に対して加工や処理を施し,実験試料を作製する (Process)

供試材に対して加工や熱処理などのプロセスを施します.このプロセスによって材料の組織や構造に変化が生じます.

③ 実験試料を測定・観察用に加工し,調査を行う (Examine)

プロセスによって変化が生じた実験試料を調査するために,所定の形状に切り出しや研磨によって加工します.加工した試料を用いてあらゆる測定や観察を行い,実験データを取得します.

 

大きく分けると以上の3ステップなのですが,プロセスや測定のための試料作製に非常に時間がかかります.(実験の7~8割が試料作製)

材料に対して行うプロセスや測定によりますが,私が行っている研究では,1試料に対して一連の手順を済ませるのに10時間くらい?費やしていると思います.(正確に測ったことはないので大体です)

また,その実験が成功する保証もないため,その実験を何回も繰り返すことが多々あります.

そのため,材料系の研究室は研究時間(拘束時間)が比較的長く,大学内ではかなりのブラック研究室として噂が広まっています.(笑)

4.材料研究の良いところ・悪いところ

これまでは金属材料の手順について説明してきましたが,ここでは私が実際に感じる材料研究の良いところ・悪いところを挙げてみようと思います.

良いところ

① 基礎研究を行うことができる

大学等のアカデミアでは基礎研究が主に行われていますが,材料分野においては基礎研究の割合が特に多いと感じます.基礎研究は,企業等で行われる応用研究とは違って現象の根本にアプローチすることになるので,非常に難しい反面,研究者や技術者に必要となる”考察する能力”を養うことができます.

材料分野以外にも基礎研究を行っていることもありますが,機械工学科内の他研究室においては産業分野への実用化に向けた研究が多いと思います.(少なくとも私の大学はそうです)

そのため,問題の根本について考えることが好きな人や,基礎研究を行いたい人にとっては材料研究は向いているのではないでしょうか.

(ちなみに,私も金属系のかなりニッチな基礎研究を行っていますが,この材料が将来どのように活用・応用されるかを妄想しながら研究を進めています.それが結構楽しい)

② 材料の知識を様々な業界で活用することができる

これは就職に向けたメリットになるため,学部や修士卒業後に就職を考えている方にとっては非常に大きなメリットになると思います.(ほとんどの方がそうだと思いますが...)

金属材料を研究する場合,鉄鋼業界や非鉄業界に就職すると思われがちですが,そんなことはありません.私の研究室のOBや先輩方は自動車業界やオーディオメーカーなど幅広い分野に就職しており,意外にも鉄鋼・非鉄業界に就職する方は半分程度です.

それを聞いて,皆さんこう思うのではないでしょうか.

材料系の研究をしているのに,なぜ他業界への就職も強いのか?

 

その理由は,”金属材料は機械や製品に必須”だからです.

どんなメーカーにおいても金属材料は欠かせません.そして,それらの材料を加工する上で材料の知識というのは必要不可欠になってきます.

私の研究室から大手オーディオ企業に就職した方も,自分が持つ材料知識を企業に活かせることをアピールして内定を貰っていました.

そのため,多分野の企業に就職を考えている人や,就職先はまだ決まっていないけど分野を絞りたくない人にとってこれは非常に大きなメリットになると思います.

悪いところ

① 研究室内で研究を行わなければならない

これは実験中心で進める研究全般に言えることですが,その場合研究室に通うことが必須になります.

一方,シミュレーションや計算を行っている研究やプログラムに関する研究などは研究室に必ず通う必要はありません.私の知人にも,ロボット研究のプログラム開発や計算によって研究を行っているため,研究室にほとんど行かない(行く必要が無い)という方がいます.

そのため,研究室を決める際は自分に向いている研究スタイルなのかを調べておくといいと思います.

② 研究・開発しても”物”となることがほとんどない

材料研究は,文字通り材料の研究なので,開発したものが物(製品)になることはほとんどありません.(機能材料の場合は製品になることもある)

例えばロボットの研究の場合,研究したもの(成果)が物となって現れ,その研究の素晴らしさや功績を物や動作として見ることができます.応用研究や実用化に向けた研究の場合はこのようなことが多いと思います.

一方で,材料研究(基礎研究)の場合,研究の成果は"数値"だけで物としては得られません.一般の方にその成果を見せてもあまりその素晴らしさを分かってもらえないことも多いです.

これが材料研究の大きな欠点(?)だと言えるでしょうし,私はそう思います.

 

実際に,私の研究室メンバーも自分の成果を物として残したいと思う方は多く,

「早く就職して製品を作りたい!!」

とよく言っています.(笑)

 

そのため,ものづくりが好きな方や自分の成果を多くの人に知ってもらいたい人にとっては,材料研究は合わないかもしれません.

5.まとめ

この記事を読んで,少しは材料研究について知ってもらえたでしょうか?

材料研究の良くない点(大変なこと)についても書きましたが,それ以上に材料研究が社会に貢献していることも非常に多いと私は思います.

また,この記事を通して材料研究に少しでも興味を持ってくれたら嬉しいです.

では,